「出版ADR」駆け込み第1号の蹉跌 〜「文藝家協会ニュース」より

 ぼくは、日本文藝家協会の会員です。

 日本文藝家協会では定期的に会員向けの「文藝家協会ニュース」を発行しているのですが、その「6月号」(2016年6月30日発行)にぼくの投稿が載っています。

※画像はクリックすると拡大します。
文藝家協会ニュース
「出版ADR」駆け込み第1号の蹉跌①
「出版ADR」駆け込み第1号の蹉跌②



 その文章をここに掲載します。

VOICE「出版ADR」駆け込み第1号の蹉跌

 結論からいうと、役に立たない、というより、存在意義がない。
 昨年の11月に、ようやく運営がはじまった『出版ADR』である。
 ADRとは、日本語では「裁判外紛争解決手続き」と呼ばれる。
 日本では、「裁判沙汰」という言葉がネガティブなイメージで受け止められるように、裁判(民事)を極力避けたがる傾向にある。時間も労力も、費用もかかる上に、モノ書きが出版社を提訴して、例え勝訴したとしても、その後の関係は修復し難い。
 加えて、規制を取っ払い、自由市場主義の定着を目指した一連の構造改革は、そこで多発するトラブルを米国並みに、司法によって解決させることを求めた。司法制度改革が一体であったのもその為だし、そこで裁判所の負担緩和にADRが派生してきた。
『出版ADR』は、直接的には、昨年1月の著作権法改正に伴う国会の付帯決議で、設立が求められていた。日本文藝家協会、日本ペンクラブ、日本漫画家協会など著作者団体11団体と、書協、雑協、日本出版者協議会の出版社団体3団体が設立社員となり、代表理事に作家の浅田次郎氏、副代表理事に漫画家の里中満智子氏が就任し、設立された。出版契約上のトラブルを、裁判沙汰にせず、和解調停を斡旋して解決することが目的だった。
 日本文藝家協会の助言もあって、この機関を利用してみた。私の懸案が、ここで取り扱った第1号になる。
 私の場合、立て続けに2件のトラブルがあった。ひとつはS社の総合週刊誌、もうひとつはK社の女性週刊誌で、いずれも報酬の未払いに関するものであり、話し合いをしようにも、いずれの担当者も電話にすら応じない。無視を決め込んでいた。まさに、いまにいう「ブラック・バイト」並みの対応だった。いままでにこんな扱いを受けたこともない。社会通念上も信じ難いできごとだった。
 そこで、出版ADRの相談窓口に電話をいれた。相談員が対応する。後日、ADR側が弁護士と話をして、法律的に紛争対象となる事案であることが承認される。相手側に瑕疵が認められるということだ。そこから、和解斡旋をADRに申し込む正式手続きに入る。
 ただし、そこから、こちらがリスクを負うことも説明される。和解調停なので、こちらの思うような解決にならないこともある。決裂することもある。仮に和解に至っても、今後の仕事に支障がでないとも限らない。
 私は迷った。懇意の編集者にも相談した。将来を考えると思い留まるべきか、否か。それでも「後進のためにも」と、協会関係者から背中を押されたことが大きかった。
 正式な手続きを踏んだ。「和解斡旋申立書」に必要事項を記入し、これまでの事情をすべて説明する文書も作った。これをADRの事務局に提出し、手数料として1件に付き1万円+消費税、2件分を指定口座に振り込み、すべての手続きが終了した。
 この瞬間に一抹の期待をかけた自分が愚かであったことを思い知らされるまでに、時間はかからなかった。
 その翌週。出版ADRから1通の封書が届いた。「和解不成立通知書」というもので、そこにいくつかの理由項目が並べられていて、「相手方が不応諾のため」という枠にチェックが入っているだけだった。
 出版ADRの事務局長に事情を尋ねた。こちらの手続きが終了してから、出版社に通知書を送った。数日後、両社から具体的な答弁書もなく、「斡旋を希望しない」という項目にチェックの入った回答書だけが送られてきた。ただ事務的な文書の往来ですべてが終了した。事務局から、席に着くよう積極的に働きかけることも一切なかった。
 これではわざわざ高額を支払って、「アオヌマが御社に不満を持っています」と通知していただいた、それだけのことである。こんな間抜けな話があるだろうか。
 そうであるなら、最初から内証証明を送致する訴訟手続きをとるべきだった。しかし、そうした事態を避けるために設立されたものが、まるで機能していない。ましてや、雑協も設立社員である。
 後進のために、あえて言おう。出版ADRを頼ると、バカをみる。法律上も瑕疵があるわけではないのだが、存在そのものに意味がないのだ。私のように罠に落ちるだけだ。
 また、この問題は、明らかに下請法に抵触する。弁護士を交えてADR側が和解斡旋事案として認めたのも、そこに事情がある。
 下請法については、公正取引委員会と中小企業庁にそれぞれ、相談、申告の窓口がある。中小企業庁においては、無償でADRを実施している。下請法には、報復措置を禁止した条項もある。よほど、最初からそちらに相談したほうがよかった。いま、このような事態に陥ったからには、報復を避ける意味でも、当該省庁に申し出たいところだ。
 だが、私が身を置きたいと望む場所は言論の世界だ。その場所に官公庁が指導や警告という形で介入することが、果たして正しいことなのか、迷いの中にある。

青沼陽一郎〈ジャーナリスト・作家〉


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プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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