オウム裁判 東京新聞の酷い社説

 一連のオウム裁判が終結して、死刑囚の移送がはじまり、いつ死刑が執行されてもおかしくない段階に入りました。
 テレビ局では、それも死刑は朝の執行が通常ですので、朝の情報番組などはここ数日、その準備をして待ち構えているようです。
 おかしな言い方ですが、オウム事件がヘンに盛り上がっています。

 そんな折、このブログでは前回「オウム裁判終結に思うこと」と題して、新聞の論説について触れています。そのあとに見つけて、しばらくは触れないでいたのですが、滝本太郎さんが新聞社に対して、この社説の修正を要請していることを知ったので、この時期にあえて言及しておきます。

 東京新聞の1月29日の社説です。
 一連のオウム裁判が終結したことを受けて書いています。

 ネットでも閲覧できましたので、転載してみます。

オウム裁判 終結しても残る悔い|東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018012902000134.html

【社説】
オウム裁判 終結しても残る悔い

2018年1月29日

 オウム真理教事件は犯罪史に刻まれる。元代表が逮捕されて二十三年たち裁判が終結。計十三人の死刑が確定した。怪物のような組織を生んだのは何か。なぜ防げなかったか。悔いがまだ残る。

 地下鉄サリン事件、松本サリン事件、坂本弁護士一家殺害事件、東京・目黒公証役場事務長監禁致死事件…。一九八〇年代から九〇年代にかけ、オウム真理教が起こした数々の事件で、計二十九人もの人が死亡した。負傷者は実に六千人以上を数える。

 裁判が始まったのは九五年七月だった。今月下旬に殺人罪などに問われた元信者高橋克也被告に対し、最高裁が上告を棄却したことで、無期懲役が確定した。すべての裁判の終結を意味する。費やした年月は二十二年六カ月にも及んだ。何と長い歳月だったか。

 震撼(しんかん)したのは犯罪による犠牲があまりに多かったこと。サリンやVXガスなどという、当時は一般人には未知の化学物質を教団で製造していたことにもある。猛毒の殺人兵器としてである。その衝撃もあった。未然に察知、防げなかったかという悔いは大きい。

 富士山のふもとの村に「サティアン」と呼ぶ建物をいくつも並べ、「疑似国家」の拠点であったこともわれわれの常識観を大きく揺るがした。何のためにと。

 元代表の麻原彰晃死刑囚=本名・松本智津夫=に洗脳されていると言われていた教団幹部らも、法廷では洗脳からすんなり解けたように発言していた。

 <麻原のような怪物が二度とこの世に生まれてこないためにも、すべて真相を積極的に話します>

 <一人の人間として、医師として、宗教者として失格だった>

 だが、肝心の麻原死刑囚は「私は完全な無罪です。無実です」と述べるばかりだった。そうなのだ。真相にたどりつけない。もどかしさは、麻原死刑囚が法廷で何も語らなかったからなのだ。

 ヨガサークルから武装化した教団へ。社会への恨みが肥大化したのか。有為な若者たちが教祖に惹(ひ)かれたのはなぜか。凶悪事件の検証作業が今後も必要なのはそこにある。

 後継団体「アレフ」は今も「麻原信仰」を強める。約千四百五十人もの信者がおり、毎年百人程度の入信者がいる。事件を知らない若い世代が多いそうだ。

 その意味でもオウム事件は風化していない。悪夢のような事件であった。だからこの社会はあの悪夢こそ教訓とすべきなのだ。


 酷いものです。

>震撼(しんかん)したのは犯罪による犠牲があまりに多かったこと。サリンやVXガスなどという、当時は一般人には未知の化学物質を教団で製造していたことにもある。

 「VXガス」と書いています。
 犯行に使われたのはガスではありません。液体であって、気体ではない。
 液体の「VX」を滴下して殺害しようとしたのです。
 これはサリンを「サリンガス」と書くようなもので、新聞社としてはとても恥ずかしい間違いです。
 犯行態様もわかっていないのでしょうか。

>元代表の麻原彰晃死刑囚=本名・松本智津夫=に洗脳されていると言われていた教団幹部らも、法廷では洗脳からすんなり解けたように発言していた。

 洗脳されていると言われていた……? 教団幹部が!?
 そんなこと聞いたことがありません。
 「マインドコントロール」を弁護側が主張していたことは、多くの裁判でありました。
 ですが、マインドコントロールと洗脳は違います。
 洗脳とはどこから出てきたことなのでしょうか。根拠が定かでありません。
 マインドコントロールを洗脳と混同しているのなら、大失態です。

>だが、肝心の麻原死刑囚は「私は完全な無罪です。無実です」と述べるばかりだった。そうなのだ。真相にたどりつけない。もどかしさは、麻原死刑囚が法廷で何も語らなかったからなのだ。

 「私は完全な無罪です。無実です」そう語ったのは、たった1度きり。
 それも裁判がはじまった当初、1996年10月18日の第13回公判で、開廷と同時に意見陳述を求め、この日予定されていた地下鉄サリン事件に関する井上嘉浩の「反対尋問を中止していただきたい」と懇願した時に言った言葉。

 それも正確には、「私は全面無実です」と言ったはずです。私のメモにはそうなっています。

 その時は証言台の前にしっかり立って、「この件につきましては、すべて私が背負う(しょう)ことにします。ですから、今日の証人を中止していただきたい」とまで語っていた。
 本当に、この日は饒舌に、時には裁判長を持ち上げたりしながら、反対尋問をしたら弁護人は「カルマを受けて死ぬ」と言ったり、「全国民が不幸になる」「闇に落ちる」という主旨の発言までしています。
 それでも弁護団は反対尋問をはじめてしまった。そこで麻原と弁護団の意思疎通がはかれなくなり、不規則発現がはじまった。
 麻原を黙らせてしまったのは、弁護団です。

 それから半年後。
 1997年4月24日の第34回公判で、麻原はきちんと罪状認否をしている。
 起訴されたすべての事件について語っている。少なくとも彼はすべての事件のことを承知していて、彼なりの見解を述べていた。
 その主張について裁判所がどう判断したのか、判決文を読めばわかることです。
 法廷で何も語らないとは、虚報です。
 結局、これを書いた人も自分の中で思い描く〝真相〟とやらに合致しない不満を、虚実で正当化しようとしている。

 この社説を読んだ滝本太郎弁護士は、即日、この内容の修正要請を配達証明で東京新聞に送付しています。

 実は、この社説を書いたのは、オウム裁判がはじまった当時の司法キャップで、現在は司法担当の論説委員。
 そんな人物が「VXガス」と書き、教団幹部が「洗脳されていると言われる」と書き飛ばし、麻原が法廷で何も語らないと書き流す。
 思い込みと想像で書いていると言っても過言ではなく、これはもはや新聞社の体を成していない。

>凶悪事件の検証作業が今後も必要なのはそこにある。

 この社説の説く「凶悪事件の検証」それ以前の問題です。

 こんな酷い社説は取り消すべきでしょう。
 明らかに事実関係に間違いのある誤報なのですから。

 それとも、東京新聞は歴史を誤って伝えること、人々を裏切ることが社是であるのなら、致し方ありませんけれど。
 こんなことでオウム事件、裁判について報道されては、堪ったものではありません。

 参考までに、当時発行の『青ちゃん新報』を添えておきます。
 東京新聞より、よほど〝弊紙〟のほうが正確です。

『青ちゃん新報』1996年10月19日
※クリックすると拡大します!


【ことば】『青ちゃん新報』
 オウム裁判を取材していた青沼陽一郎(つまり私)が、当日の裁判の模様を手書きで〝かわら版〟に仕立て、関係各所に配布していたもの。ここから特ダネを拾った新聞社もあった。話題となって週刊誌に取り上げられたこともある。



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滝本です

おおっ、青ちゃん新報、懐かしいです
プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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