復刻『青ちゃん新報』法廷場外乱闘!酸素吸入器片手に激昂!! 2014年1月27日

復刻!青ちゃん新報電子版

酸素吸入器片手に場外乱闘!
「被害者の会」会長、激昂す!!

 朝9時過ぎ。冬の寒さが身に染みる霞が関の官庁街。その一角にある東京地方裁判所の玄関脇では、酸素吸入器とボンベを引きながら、傍聴券の抽選を待つ人の姿があった。
 かつて「オウム真理教被害者の会(現・家族の会)」と呼ばれた団体の会長を務めていた永岡弘行さんだ。
 永岡さんは、昨年、大病を患い手術を受けてから、酸素吸入器が手放せなくなった。そうでなくてもご高齢の身体。朝の寒さは身に応えるだろうに、それでも平田信被告の裁判を傍聴するために、朝から抽選に並んでいる。
 この日は、火炎瓶事件の共犯者とされる山形明服役囚が証人出廷する。山形は、VX事件の実行役として永岡さんにVXをかけ、重傷を負わせた人物でもある。そのいまの姿を見たかったこともある。
 午前10時の開廷前。傍聴券を手にした永岡さんが、第104号法廷の前の廊下で座って待機していると、優先的に傍聴を許可され、目の前を通り過ぎていく男性がいた。その姿を見るなり、それまで柔和だった永岡さんの表情が激変する。
「どうして、あんな男が、こんなところに……!」
 そして、事件は午前11時過ぎにとられた休廷の時間に起きた。
 傍聴席からもとの廊下に出てきたところで、永岡さんがさっきの男に激昂して怒鳴りかかったのだ!
 相手の男は島田裕巳氏。宗教学者で、平田信被告が起訴されている爆発物取締罰則違反事件で、当時の自宅マンションの玄関に爆弾を仕掛けられた、いわば、この裁判の被害者にあたる。
 この日の山形明服役囚の証言によると、火炎瓶を投げ込みに出かける直前に、爆弾を爆発させて杉並区内の一軒家のアジトに戻ってきた井上嘉浩死刑囚は、非常に興奮した状態で、
「バクダン、バクダン! 花火みたいに凄かった! ヒロミちゃん、ヒロミちゃん! もう1回やれば完璧だ!」
 と、喚き散らしてはしゃいでいたという。
 だが、そもそも、彼の自宅マンションに爆弾が仕掛けられたのは、彼がオウム真理教にもっとも好意的でシンパシーを抱いていてくれる宗教学者だったから。オウム側もそれを認識していたから。その学者宅にわざと爆弾をしかけ、誹謗中傷するビラを撒くことで、翌日に予定されていた(そして実行された)地下鉄サリン事件が、オウムに敵対する勢力によって引き起こされたとカモフラージュできるから。その目的で、このあと東京・南青山にあった東京総本部道場に火炎瓶を投げ込むことと同様に、あえて身内を傷つける自作自演事件を引き起こしたのだ(本当にそれで攪乱できると考えていたところが、あらためて考えてみると恐ろしい)。

永岡弘行 酸素吸入器を引きずりながら法廷に通う永岡弘行さん

 平田信の裁判でも、この頃、サリンプラントが建設されていた第7サティアンを訪れた島田氏が、そこを宗教施設として絶賛し、教団を持ち上げる内容を書き連ねた『別冊宝島』の署名原稿が検察側の証拠として挙がっている。
 永岡さんの怒りは、そうして裁判で明らかになる以上に、オウム真理教を賞賛し「素晴らしい」と声を大にして語りかけ、それを信じてオウム真理教に入信あるいは出家していった多くの人たちの姿を、目の当たりにしているところにある。彼にしてみたら、多くの人々をオウムという不幸に陥れた原点にある人物に映ってならなかった。
「あいつのお陰で、○○千万円(教団に)持っていかれた人だって、知っているんだから」(永岡談)
 そうした事態に、いまになっても何の言及もしないことに、永岡さんの怒りは一段と増す。
 さすがの剣幕に、それも酸素吸入器とボンベを引きずりながら、怒りを爆発させる姿に、周りも宥めに入ったらしい。
 それでも収まらない永岡さんの激昂に、島田氏は当時の彼の言動について、
「それは、受け取りようですから」
 と答えて返していた。それがまた周囲の耳目を集める。
「永岡さんが怒るのも無理ないよ」周辺からは同情の声が挙がる。
「朝も早くから一般傍聴として並んで傍聴券を手に入れているのに、それが被害者として優先的にそういう人に傍聴席が用意されちゃうんだから」
 だが、爆発事件については、やっぱり島田さんが被害者のはずなのだが……。

被害者なのか!? それとも加害者か?
 島田氏についていえば、最近でこそ週刊誌に連載を持つなど、活躍の場を広げているが、地下鉄サリン事件が起きてからは強烈な批判に晒され、当時あった大学教授の地位も追われた。生活も困窮したようで、その頃の彼に一度だけ会ったことがある。事件のあった当時よりも、そしていまの姿よりもずっとやつれて、憔悴していた姿を見ている。傍目にも、かなり苦労もしていることがわかった。それに、間違いなく、教団によって爆弾を仕掛けられた被害者であるはずなのだが……。

「青ちゃん、やっちゃったよ……」
 落ち着いたところで、法廷前廊下の長椅子にいた永岡さんの隣に、本紙記者が腰を下ろすと、まずそうひと言があった。そして、
「疲れたから、ここで少し休むわ」
 午前中の再開廷後の傍聴席には、永岡さんの姿はなかった。
 独りで法廷の外にいた。
 そして、昼の休廷に入ったところで、さすがに事態を察知した検察官たちも心配したように、法廷廊下に姿を現し、永岡さんを取り囲んでいた。そりゃそうだろう。だって、自分たちが提出した証拠で島田氏がオウム真理教を支持して持ち上げていた当事者であることを立証しているのだから。永岡さんのお怒りはごもっとも、と言うしかあるまい。だけど、昔の検察ならそこまで気にはしなかったかもしれない。よほど、痛々しく見えたのか。
 被害者のはずが、いつしか加害者になる。永岡さんも子どもたちを取り戻すべく被害者の会を立ち上げたところ、事件が発覚してみれば、その会員に事件を引き起こした信者の親もいた。被害者のはずが、いつの間にか加害者になっている。だから、事件の被害者には頭を下げる。
「なのに、あいつときたら……」というところに、義憤の種がある。
 この事件の複雑な構図。そして拭えない不幸。
 それと、もうひとつ気付いたこと。
 どうも島田裕巳氏の周りには、あの当時から今日に至るまで、爆発物がついてまわる傾向にあるらしい。
 今日は法廷の外で、そのひとつが爆発した。



フクシマカタストロフ カバー・帯 books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900148


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プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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