復刻『青ちゃん新報』裁判長、仕切る!キレる! 2014年1月29日

復刻!青ちゃん新報2電子版

朝はさわやかに……訴訟は厳しく
でも、ここまで言わせるか!?
「おはようございます」
 東京地方裁判所第104号法廷。午前10時。今日も齊藤啓昭裁判長の法廷内に向けた〝朝のご挨拶〟から平田信被告の裁判ははじまった。
「では、今日の審理をはじめます」
 これまでいろんな裁判を見てきたが(それは裁判員裁判がはじまったあとも)、開廷の前にちゃんと丁寧に〝おはよう〟の挨拶のできる裁判長というのも珍しい。
 それは、閉廷の時もいっしょで、証人がいればまず証人が、次に裁判員が退廷して、それから被告人が施錠をされて退廷したあとに、傍聴人はさっさと退廷しなければならないのだが、その前にもひと言、
「たいへんお待たせいたしました。では、傍聴の方も退廷してください」
 と、気遣いのひと言が加わる。 
 あるときは、開廷前の法廷内撮影が終わったあと、ふたりの裁判官が裁判員を迎えに出ている間に、ひとりになった法壇の上を右から左へせわしく動き回り、設備の点検をしたり、裁判員の為の椅子を整えたりと、刑事裁判を取り仕切る裁判長としては、珍しい姿を見せるのだが……
 これが訴訟指揮となると、掌を返したように手厳しい。
 齊藤啓昭裁判長・法服 平田公判の訴訟指揮をとる齊藤啓昭裁判長

 今日の平田公判には、最初に仮谷事件で現場を目撃した一般男性が証人出廷した。いうまでもなく、事件当時の目撃者だけに高齢になっている。その証人が、手に防寒具を持っているのをみると、
「上着をお預かりしましょうか」
 と、気遣いのひと言。証人が、大丈夫、と答えると、
「こういう場で緊張されていると思いますが、質問の意味がわからなかったり、聞きづらいところがあれば、聞き直してもらって結構ですから」
 と、これまた気の利いたひと言。
 そうしてつつがなくこの証人尋問が終わった(15分で済んだ!)、その次の証人尋問から、本領は発揮されていく。
 証言台には傍聴席から証人の姿が一切見えない遮蔽板が用意され(この裁判はやたらに遮蔽が多すぎる!)、そこに平田被告の共犯とされる元信者が出廷した。仮谷さんを拉致した車の運転手役だったが、もう刑期も終えて社会復帰して過去の教団との関係も隠しているから、名前も公にしたくないのがその理由。だけど、個人的には教団で半ば強制的に整形手術を施されちゃった、いまの顔を見てみたかった……え? なんで顔に整形手術が必要だったか? それは平田被告と同じように教団で最初に……って、これ以上は差し控えるけど。
 結果から言えば、この証人も平田被告が主張するのと同じように、事前に拉致の計画は知らされていなかったことを証言している。その証言を引き出すため、この日は弁護側の主尋問からはじまったのだが……。
 昼の12時をまわったところで、弁護人が尋問の区切りがいいことを伝え、ここで休廷に入りたい旨を伝えた。すると、

齊藤裁判長「あと、どのくらいですか」
弁護人「3分の2は終わりました」
齊藤裁判長「(ちょっと驚いた顔をして)予定の時間は過ぎてます。もっと、簡潔にできませんか」
弁護人「もう少し訊きたい」

 そこでさらに不機嫌なる裁判長。

齊藤裁判長「事件のところはそれでいい?終わりました?……午後も続けますけどね、簡潔にしてください!」

 で、午後1時30分。再開廷。
「お待たせしました。午後の審理をはじめます」
 と、これまた裁判長の気の利いたひと言ではじまると、恐縮したように弁護人が、
「あと10分で終わります」
 と告げて尋問再開。ところが、それから10分もたたずに主尋問が終わると、検察側の反対尋問に。すると、しばらくして、裁判長から検察官に注意が飛ぶ。
「声が小さいですから、もっとはっきり」
 で、検察官が気合いを入れ直してたった1問訊ねたところで、
「それは、事件のことと関係あるんですか! そのくらいにしてください!」
 尋問の内容は、確かに仮谷事件から逸れて、教団が引き起こしたまったく別の拉致事件に移っていた。
 さすがに、裁判長からきつく言われては、検察も右往左往。しばらくヒソヒソの相談があったあと、ベテランの検察官が立って、ひと言。
「終わります」
 ありゃりゃ、厳しく言われて検察官も尋問をやめちゃった。と、思ったら、すぐに齊藤裁判長が場を取り繕うように「では、私から確認しますが……」と言って、直接証人に尋問をはじめて、仕切りはじめちゃったのだ。よっぽど、弁護側検察側双方の尋問に物足りなさを感じたらしい。本来なら、ここで裁判員に質問させる時間をとるはずなのに、先行して自分で聞きはじめちゃうんだから。まるで、余計なことばかり訊いて肝心のことを訊いていない弁護人や検察官のなすべき本来の仕事をフォローするように。
 案の定、齊藤裁判長がひととおり納得いくまで尋問すると、ここで休廷に入り、再開廷するとこんどは裁判員、裁判官、そして再び裁判長ご本人と、また裁判所からの尋問を繰り返す有様。途中で裁判長さんが入って仕切らなければ、尋問も的確に進まないほどに、この裁判は迷走しかけている。
 その伏線なら前日(28日)にあった。
 いや、それどころか、この裁判長はキレた。

裁判長キレる!
「無駄だからやめてください!」

 それは28日の平田公判でのことだ。
 この日は、平田被告が起訴されている事件の共犯ではまったくない元教団信者の杉本繁郎服役囚が法廷に出廷した。杉本服役囚といえば、地下鉄サリン事件の運転手役であり、教団内の信徒リンチ殺害事件2つに関与して無期懲役の刑が確定している人物。
 実は、地下鉄サリン事件の運転手役の候補に挙がっていた平田被告は、実際に事件の前日に実行犯と駅の下見にまで行っている。そのときに行動を共にしたのが杉本服役囚で、つまり平田被告は地下鉄サリン事件の計画を知った上で自作自演事件(爆弾事件と火炎瓶事件)に加わっていたことを証明したいらしい。つまり、一連のテロ事件を認識、共謀の末に爆弾を仕掛ける手伝いをした、と言いたいのだ。
 ところが、この裁判における検察側、弁護側双方のあまりの尋問の下手くそぶりは、本紙が既報した通りで、そこに齊藤啓昭裁判長ですら、ウンザリしたような指導が飛ぶ。
 杉本服役囚は、地下鉄サリン事件の起きる数ヶ月前まで第7サティアンにあったサリンプラントにサリンの原材料を運ぶ仕事に就いていた。それが平成7年1月1日の読売新聞のスクープによって、急遽このプラントを隠蔽するために張りぼての神殿(宗教施設)に作り替えている。ここに案内された宗教学者の島田裕巳氏が〝素晴らしい宗教施設〟と持ち上げてしまうわけだが……。
 まずサリンの能力について言及した検察側の質問に、「サリンの能力を訊くことに何の前提があるのか」と弁護人が異議を唱えると、さすがにこの時の齊藤裁判長は「もう少し裁判所は伺おうと思います」とやんわりかわす。
 ところが、島田氏を案内したこの時のサティアン内部の構造を根掘り葉掘り訊ね始めると、こんどは弁護人の異議を認めるように、
「それを訊くことに、どういう関係があるのですか」「次、いってください!」
 この辺りから雲行きは怪しくなってきた。
 それから尋問は進み、具体的なサリンの生成では時間はかかるし、実際に蒸溜するとガラス管に凝固物が溜まってたいへんだの云々……と、まあ、どうでもいいといえばどうでもいいような話を杉本がウダウダとはじめたところで、
「検察官、(尋問が)長いですけど、サリンのことを聞いているんですか」
 と嫌味交じりのような指導が入る。確かに、平田被告の裁判とサリンは直接的な関係はない。もう午前中の尋問から、イライラのご様子。
 で、事件は、午後の弁護側の尋問のときに起きた。
 最初の指導は、弁護人が過去のオウム裁判における杉本服役囚の証人出廷回数を訊ね、「死刑囚で6人、有期無期刑で9人。複数の事件に絡むから合わせると17〜8回は出廷している」と杉本が答えた次になんと!(さすがに本紙記者も驚いたが)取り調べの回数まで訊こうとしたときだった。

齊藤裁判長「取り調べの回数まで答えることに意味があるんですか」
弁護人「信用性の確認です」
齊藤裁判長「裁判の証人にそれだけ出て行っていると言っているから、いいじゃないですか!」

 確かに、あれだけの事件を起こした取り調べの数なんて、覚えられる回数じゃないだろう。
 すると、こんどは杉本が証人出廷したときの証言の内容を確認に入る弁護人。裁判記録を読み上げ、この時にこう言っているか、あの時はこう言っていないか、とか、10年以上も前の証言をあれやこれや確認に走る。さすがに杉本も「残念ながら覚えていない」を繰り返し、それでも執拗に確認作業を続ける弁護人に、メモをとる手を止めて、むくっと顔を上げた裁判長が呆れたようにひと言。

齊藤裁判長「弁護人、どのくらい続くんですか!?」
弁護人「もう少し。証人の信用性にかかわります」
齊藤裁判長「もう、過去の裁判は覚えてないと答えている!」

 同じ質問は避けます、弁護人はそう答えて、別の質問をはじめた。ところが、そこでこの日の午前中に杉本が答えた内容を、まるでメモを読み上げるようにそっくり繰り返し、こう言っているが間違いないか、という質問をはじめたものだから、さすがに裁判長もキレた。
「主尋問で答えたことと同じだと思いますよ!」
 そして続け様にこう言い放ったのだ。
「無駄だからやめてください!」
 弁護人の尋問に「無駄」と言い放ち、「やめてください!」と注意する裁判長もはじめて見た! そこまで言わせるとは……明らかに激昂していた。
 因みに、この日は傍聴席に島田裕巳氏がいた。彼の周辺では、必ず誰かが爆発するらしい。
 オウム事件は、いろんな事件がいろんな人たちによって複雑に絡み合う組織犯罪である上に、時間の経過が人々の記憶を薄れさせる。そこに尋問の下手くそぶりが加わる。いや、ひょっとして午後になると自然と裁判長の機嫌が悪くなるだけかも知れないが、そこに迅速な裁判員裁判の審理を望んで時間を気にする、裁判所の意向も加わって、裁判は混沌としてきている。
 もうちょっとうまく裁判が進まないかな。



フクシマカタストロフ カバー・帯 http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900148
 あと2日!

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プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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