復刻『青ちゃん新報』あの頃といったいなにが変わったのか?〝童貞の死刑囚〟ついに出廷! 2014年2月3日

復刻!青ちゃん新報2電子版

ついに〝童貞の死刑囚〟出廷!!
その時、法廷は……

 ある科学者が「嘘に効く薬」というのを開発した。これを臨床実験するために、嘘つきばかりを集めて、この薬を飲ませてみた。すると、あらびっくり!嘘つきたちは「嘘つきが治った」「嘘がつけなくなった」と、薬の効果を口々に語りはじめた。学者は喜んで、この臨床データをもとに、市販薬として大量に売り出す。ところが、ちっとも売れなかった。学者はなぜだろう、と頭をひねった。……確か、そんなようなお話が、天野祐吉さんの著作にあったように記憶している。今日はどうしてもそんな寓話が頭を過ぎって仕方ない。
 3日、午前10時からはじまった平田信被告の裁判員裁判。東京地方裁判所第104号法廷には、平田被告が起訴された3つの事件の共犯とされる井上嘉浩死刑囚が出廷した。死刑囚の出廷ということで、傍聴席からの視線を避けるように証言台の周りには、遮蔽板が置かれ、傍聴席を隔てるように防弾のアクリル板が設置されている。生憎、井上嘉浩死刑囚の姿を確認することはできなかったが、それでもマイクを通じて聞こえて来る声は、以前と変わりがない。いや、それどころか、早口で饒舌にまくし立てる口調は相変わらず。むしろ、以前のように、人前で事情を説き、人々の注目を集めることが、気持ちよさそう。それは、教団にいて、信徒の勧誘に熱弁を振るい、耳目を集めていた頃のそれとまったく変わらないのだろう。
 そして、この日の最大の衝撃は、仮谷さんの死亡したことについて触れたときだった。
 先月21日に証人として出廷した中川智正死刑囚の証言でも、あるいはこれまでの仮谷事件の裁判での事実認定でも、麻酔薬で眠らせた仮谷さんを上九一色村にあった教団施設に連れてきて、ちょっと中川がその場を離れて戻って来た隙に仮谷さんが亡くなっていた、とされている。中川によると、村井から仮谷さんの首を絞めて殺害するように指示されて、その首絞め役の信者を呼ぶために電話をかけにいったら、死んでいたという。
 ところが、この日の井上の証言によると、その場にやって来た井上に対して中川が、「どうせ首を絞めさせてポアさせるのだから、この際、薬物の効果を確かめてみることにした。薬物を点滴で注射したら、急に身体が光り出されて、その時にポアされた」と言った、というのだ。つまり、意図的に薬物を点滴注射して、仮谷さんを殺害した、という。しかも「このことは麻原(と、井上は呼び捨てにしている)には、言わんといてくれ」と中川に言われた、と井上はいうのだ。
 これまでになかった突然の新証言。だけど、このことは逮捕された直後に弁護人には話しているし、その時に、他人ことをとやかくいうな、殺人の共謀に問われたらどうする、などと言われ、「自分自身の判断、決断で」供述しなかった、という。じゃあ、なぜ、いまになって証言するのかといえば、一審で無期懲役判決だったものが、二審で死刑になり、仮谷事件も逮捕監禁に「致死」がついたから。で、ここから、井上特有の〝青年の主張〟口調がはじまる。
「死刑囚になって、自分の罪を見つめて、どのように亡くなられたのか、愛する家族も知らない、無念があると思えて、仮谷さん(遺族)がせっかく接見に来てくれたのに、伝えられない自分が、悔しくて、虚しくて、そういう自分も苦しんで、悩んでました……」
 で、もうこのあたりからは感極まって涙声になっていて、そうするうちに中川の死刑判決が確定することがきっかけになって、遺族に手紙で伝えたというわけ。で、決めのひと言。
「それまでお伝えできなかったのは、突き詰めると仮谷さんのご遺族よりも、自分のことを大切にしてしまったんです!慚愧の念に堪えません!全ての責任は私にあります!本当に申し訳ありませんでした」
 ここではもうほぼ号泣状態。それから、しばらく沈黙。「証人、こっちをむいてください」と裁判長が発言したから、きっと検察官と並んで座っていた仮谷さんの遺族(長男)のほうを向いて頭を下げていたのだろう。
 だけど……。
 正直言って、ここまでくるともう〝病気〟だね。

井上嘉浩2 過去の法廷で〝童貞〟を告白した井上嘉浩死刑囚

あれ!?これまで真実を語ってきたんじゃなかったの?なんだったの?
 あのさぁ〜、もうこれまでどれだけの時間をかけて裁判をやって、その度に何回「真実を語る!」「松本智津夫氏と対決する!」って言ってきたの!?だいたい、初期の頃の地下鉄サリン事件の調書だって、麻原を庇うような嘘を平気で供述していて、共犯者や麻原の裁判でも弁護人から追及されていたでしょ。その度に「いま、言っていることが真実だ」なんて繰り返してきたのに。この期に及んで、まだ隠していたことがあるなんて、どういうこと?ロジックからいうと、これまでの供述だって、信用性がなくなるということですよ。嘘つきが、嘘つきに効く薬を飲まされて、「嘘が治った!」と言うように、時間を置く度に「これが真実だ」「これこそ真実だ」って言われたって、信用できなくなるんだよね。
 そのあとの、地下鉄サリン事件のリムジン謀議の証言でも、これまで聞いた記憶にない会話の内容が混ざっているし(ちゃんとノートをひっくり返して見ないとわからないけど、とにかくこっちの記憶にないことを、ここでも言い出している)、新しく記憶を作り上げてない?再構築してない?
 だいたい、薬を試したことを中川が「麻原には言わんといてくれ」と言って、それで井上も中川も黙っていたとなると、それは「絶対的な麻原には逆らえなかった」という、これまでの自分たちの主張を否定しちゃうことになるんだよね。そんなことって、ある?
 もし、中川が薬物を投与して仮谷さんを殺したことが本当だとして、そうすると今度は仮谷事件を「殺人」でなく「逮捕監禁致死」で起訴した検察が批難を受けることになる。捜査の不備が指摘される。よく検察もこんなことを証言させたもんだと感心するね。弁護方針かどうか知らないけど、やっぱり「真実を明らかにする!」と豪語してきた井上も嘘をついていたこになる。仮谷さんのご遺族も、怒りの矛先を向けるとすると検察になる。
 いろいろ考えると、考えれば考えるほどツッコミどころは満載。
 だいたい、遺族のことを考えてとか、「愛する家族」なんて言葉を使って、その人たちの為に、なんていうけど、それって、オウム真理教という組織にいて人類だか人々だかの為に「救済」を掲げていた姿と、どこが違うの?挙げ句に、違法行為に走って、その人のため、といって「ポア」するのと同じように、自分本位ばかりで他人を傷つけてない?これこそが正義なんだ、救済なんだ、それを実践する聖者なんだ、とばかりに、いまは法廷の場で共犯者たちを糾弾していく姿は、あの時となにも変わっていないんじゃないの?流暢に気持ちよさそうに語る声を聞いていると、正義の味方のヒーロー気分に浸って、あえて周りを悪者に貶めているようにすら見えてくる。麻原に代わる検察の後ろ楯を利用して。自分だけが正しいように。自分だけが悟っていて、真実を知っているように。それも、かつて信徒を酔わせたような手法で、自分の影響力を誇示することに酔いしれている。それでまた高揚して口が走る。きっと、気持ちいいんだろうな。再び注目を集められて。時として調子よく遺族を持ち上げて泣いてみて。そういう姿は、かつて地下鉄サリン事件の遺族から、法廷の場で散々罵倒されていただろうに。
 なんにもわかってないじゃないか!
 そうそう……。冒頭の嘘つきの薬の話。確かオチは「嘘つきとバカにつける薬はない」だったな。
 やれやれ、疲れる裁判だこと。あ、明日も井上の証人尋問か……。

 あ!いつの間にか、自分の心の中の愚痴になっちゃった。ごめんなさい。
 まあ、それだけ疲れる相手だ、ということです。



フクシマカタストロフ カバー・帯 http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900148
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プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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