復刻『青ちゃん新報』死刑囚って、こんなもの!? 異例の法廷出廷の果てに…… 2014年2月5日

復刻!青ちゃん新報子版 

死刑囚ってこんなものなのか!?
かつての事件に向き合う姿は!?
真っ向から衝突する事実

 5日、東京地方裁判所第104号法廷では、平田信被告の裁判が行われた。この日は、この裁判で3人目となる死刑囚の証人、地下鉄サリン事件の実行役で8人を殺した林泰男が出廷する。
 午前10時。相変わらず何のために設置されているのか理解に苦しむ防弾のアクリル板と証言台を囲う遮蔽板の前に、この日の証人が傍聴席の視線を憚って登場する。
「林さんですね」と裁判長が訊いた。「はい」と異様にかすれた声が響く。一部報道では、彼のことを「小池(旧姓・林)泰男」なんて記載しているけれど、ここの人定で裁判長が「林」といったのだから、本紙では「林泰男」で統一することにする(ついでに面倒臭いので敬称も略します)。以前にもましてかすれ声だったのも「喉はあまり調子がよくないんですね」と裁判長が確認していたから、その影響だろう。
 ここから爆発物の事件について、検察側の主尋問がはじまるのだが……。

林泰男 証人出廷した3人目の死刑囚 林泰男

 そこでまず、「オウムは素晴らしい!」とやたらに持ち上げ、擁護し、それを教団側も認めて喜んでいた宗教学者の島田裕巳さんの自宅マンションの玄関に爆弾を仕掛けたこの事件の流れをおさらいするところからはじめてみる。
 地下鉄サリン事件の発生した1995年3月20日の前日、すなわち19日の朝、林泰男は同事件の実行役だった豊田亨、廣瀬健一、横山真人(いずれも死刑確定)と、それに運転手役の候補となっていた平田信(この裁判の手役だ!)と、先週証人出廷した杉本繁郎と、それにもうひとりの信者が、上九一色村(当時)にあった教団施設から、東京に向かう。翌日に計画されていた事件の下見をするためだ。そこで立ち寄ったのが、当時、教団がアジトとして使っていた杉並の一軒家。
「井上くんが待っていると言ったんだから、彼が待っているんだろうなと思っていた」と証言する林だったが、ところが、その井上がいない。
 井上とは、前日までこの法廷で証言していた井上嘉浩死刑囚のこと。実は、このあたりのことについて、井上は「一軒家を使ってもいいけど、使うならその前に連絡をくれ」と言った、と証言している。なのに連絡もなく、知らないうちに勝手に来やがった、というのだ。__もう、このあたりから証言が食い違う。
 それから、井上が来るのも待っていた林たちだったが、「待ちくたびれて」林たちは新宿に買い物に向かう。翌日の事件の変装の為のスーツなどを買うためだ。
 この時、事件の実行役と送迎役(運転手役)の仮のペアを決めていた。林と平田、廣瀬と杉本、横山ともうひとりの信徒。決めたのは林。
「私は平田と組みたかったから。あとは適当に決めた。理由はない」(林)
 買い物のあと、平田と林はペアの決まっていなかった豊田と新宿に残って、あとの連中には地下鉄の駅の下見に行ってもらう。で、さらに豊田を車に残して、ふたりは新宿の街を「ぶらぶらする」。
「平田とふたりになりたかったから」「平田と私は深い仲間というか、自由に好きなものも食べられる間柄」「1〜2時間じゃないでしょうか」「村井の愚痴とか、この計画もうまくいかない、いずれなくなるだろうとか」「愚痴をいうことがあったのは間違いない」そうして「本屋に寄ったり、アイスクリームを食べたりして」杉並の一軒家に戻る。
 別行動の4人も一軒家に戻って、平屋づくりの真ん中の炬燵がある部屋にみんなでいると、井上がやって来た。そこで井上がメンバーに地下鉄サリン事件の運転手役が変わったこと、ここではなく拠点として使う渋谷のマンションに移動するように伝える。で、この時に、平田は運転手役を外れる。それともうひとりいた信者も。
「外れてよかったね。上九にもう戻っていいよ」
 林は平田にそう言ったという。
 では、なぜ仮にとはいえ、平田は当初、地下鉄サリン事件の運手役に選ばれていたのか。
「そもそも、私と井上でそういう話があった」「理由については井上くんが、平田、杉本、○○(もうひとりの信徒)がふさわしいと話していて、杉本と○○はサリンプラントで働いていてサリンのことを知っているから、平田はアタッシュケース事件や仮谷事件でヴァジラヤーナのワーク(≒非合法活動)をしているからと、言った」ところが、この井上の提案に、林はそこで反対する。
 そもそも、この話をふたりだけでしたとき、
「井上は『村井に任せられない』と言って、自分が主体的にしたがっていた」と言い、積極的に運転手役の名前を挙げたのも井上。そこへ
「○○と平田はふさわしくない。平田はその直前のワークで非常に精神的に不安定になっているからよくない。○○は最近のワークはちゃらんぽらんになってる」林はそういってふたりを外そうとする。
「杉本についても本当は反対したかったんですよ。でも3人が3人とも反対するのは憚られる。この計画に対して否定的と言われるのがいやで」
 ところがである。ここでも井上はまったく反対の証言をしているのだ。

井上嘉浩 vs 林泰男
井上嘉浩2 お馴染み〝童貞の死刑囚〟井上嘉浩

 周知の通り、林泰男は1996年の12月に石垣島で逮捕されるまで、平田と同じように逃亡生活を送っていた。この間にはじまっていた一連の裁判で井上は、この場面について林泰男が3人の名前を提案してきた、と証言している。まさに井上の独壇場で、林泰男って悪いやっちゃ!そんな積極的に事件に絡んで指示を出していたんだ!という印象を与えている。事実、井上は「現場指揮役は私ではない、林泰男さん」という主張を展開していたのだ。
 それが、林泰男が捕まってみれば、話が食い違ってきた。いったい、どちらが嘘をついているのか、この時点から井上嘉浩VS林泰男の構図が出来上がっていたのだ。
「8人も殺して、逃亡までしていた林さんは、少しでも罪を軽くしたいから、ぼくのせいにしようとしているんだ!」ということまで、法廷でほざいた井上に対し、
「うーん……ぼくはぼくの記憶で話している。井上くんは井上くんの記憶で話しているから、あとは裁判所の判断すること」と偉く大人の対応をしていた林だったはずなのだが……。
 話を事件当日に戻そう。杉並の一軒家で井上の指示があり、平田に「戻っていいよ」と言った林に、井上が軽い調子で声をかける。
「面白いことがあるから、いっしょに来ない?」
 それを林は、
「どこかにお茶でもしにいくのかな、と感じた」
 と、承諾する。すると、その直後に、
「井上が地図のようなのを見せて、説明しようとしたんだけど、あの辺の地理関係はわかってなかったので、説明を断って、『いっしょにいくからいいよ』と答えた」
 で、ここから「なにも覚えてない」のだけれど、林は「戻っていいよ」と言ったはずの平田といっしょに車で出て行くことになって、井上の車のあとを付いていった。で、島田さんの住んでいたマンションの近くのT字路で車が停まり、車を降りて井上のところに行くと、「マンションの前の駐車場に車を止めて、井上のすることを見ていてほしい」という主旨のことを言われ、そのとおりに駐車場に車を停めて待った。すると、T字路のほうから井上ともうひとり別の信者がやってきて、マンションの玄関に紙袋を置いて出ていってしまった。なにをしているのだろう?それを車の中から平田と見ていたら、急に紙袋が爆発する!
 すぐに車を発進させ、T字路に戻り、井上の車のあとを追ったところで袋小路に行き当たる。
「井上のバカ野郎!」と思っていた林は車を降り、「爆発するなら事前に言っといてくれ!」と文句を言おうとしたが、井上が「爆発するのが見えた!」と異様に喜んでいるのをみて、「がっかりして」車に戻る。
 つまり、林は爆弾のことを一切知らなかった、というのだ。
 同じ車の中で、爆発を目撃した平田についても同様。なにもわかっていなかった。そう認識していたという。
 林と平田は一軒家に戻り、林はそのまま渋谷に移動して翌日の地下鉄サリン事件へ、平田は井上に連れられて火炎瓶事件に関与していくことになる。
 だが……。

嘘つきはどっちだ!?
 前日まで同じ法廷で証言していた井上は、炬燵の上に住宅地図を貼り合わせたものを広げて、マンションに爆弾を仕掛けることを平田に説明している、といった。そして途中から、林に「こっちも手伝ってください」と声をかけて部屋に呼び寄せ、そのまま、
「炬燵の上に地図が広がっていたので、それを示しながら指示しました。島田さんのところに〝ヤラセ〟で爆発物を仕掛けると説明し、マンションの場所や爆発物のタイマーが3分という趣旨の説明もしました。第三者のふりをして、爆発物が爆発したかどうか確認してほしいとも。(確認するのに)『ここに駐車場があるから、ここがいいんじゃないか』という主旨のことを言いました」
「打ち合わせに使った地図を、林さんと平田さんのどちらに渡したかは覚えていませんが、地図を2人に渡るようにして、自作自演ということで(爆破を確認する役割の2人は)第三者を装う必要があったので、『別行動で』と伝えました」
 爆発後、もとの一軒家に戻ると、その同じ部屋に平田がいた。
「爆発は大きかった。人は通っていなかったので、人に被害はないよ」と平田は井上に言い、そして「〝ヤラセ〟にしたって、なんで島田さんなの?」と訊ねたとまで言うのだった。
 平田はこの爆発事件について「指示や打合せはなかった」と、つまり林と同じ立場の主張をしている。
 それが、この法廷でふたつの証言が真っ向から食い違ってしまったのだ。
 教団では平田と仲の良かったことを認める林泰男。いっしょに教祖から「不満分子」と呼ばれ、仮谷事件のあとに「こういうワークはしたくない。井上といると気が詰まる」と平田が語っていたことも暴露する。それでいて、この事件の細部については、曖昧として記憶にないことを証言する。
 検察は、平田を庇いたいから、そんな証言をするのではないか、と詰め寄るもこれを否定。それでも、詰め寄りたい検察はこんな質問まで。
検察「いまでも親しい仲なのですか」
林「ま、20年近く会ってないですからね。なんとも言えませんけど」
 そりゃそうだ。
 だけど、この日の林泰男の証言を聞いていると以前のような誠実さは消えていたように思う。まあ、年もとって、検察官や弁護人が年下になったこともあっただろうけど、質問にタメ口で答えることが多かった。「うーん……」と自然に唸ってみたり「えっとねぇ……」と前置きをしたり、「_____だね」と言ってみたり。かつて、一審の死刑判決で彼の態度は「好青年」とまで裁判長が評価していたように(「好青年」と呼ばれて死刑判決を受けるのも珍しい)、誠実に事件に向き合うような姿勢が見受けられない。記憶がないこともわかるけど、それでもどこか事件を遠くへ追いやろうとしているように、どこか開き直っているようにも見える。
中川智正死刑囚も証人出廷した中川智正 

事件の風化 証言者の劣化
 一方の〝童貞の死刑囚〟井上嘉浩。
 彼の証言ぶりは既報の通りだが、昨日の弁護側の反対尋問では、案の定、井上死刑囚の過去の供述の変遷が突っ込まれていく。
 例えば、仮谷さんを拉致することを教団施設で麻原から指示された場面でも、捜査段階で女性幹部の名前を出さずに庇っていたことを指摘される。もっとも、これは過去の他の法廷でも突っ込まれていて、麻原公判では「これからは正直に話す」と証言していることまで、突っ込まれる。それでも前々日の中川智正死刑囚の殺人関与のような重要な点を隠していたことを指摘されると「私の責任です」としか答えない井上死刑囚。「「教祖と対立する」と公言していたことや、黙っていても教祖に見通せる力(神通力)があったことを信じていたはずのことやらを突っ込まれる。
 検察とのように事前の打ち合わせもないから、証言も怯えたように大人しく受け答える。それでも、よほど自分が爆弾発言をしたこととその反響の大きさが嬉しかったらしく、訊かれてもいないのに仮谷さんの死に関する中川のことをしゃべりはじめる。「それは質問の主旨とずれている」とまで裁判長に突っ込まれるほど。よほど意識がそこにあって、とにかく語りたいらしい。
 挙げ句は、一般女性と話ができることがよっぽど嬉しかったんだろうな。女性の裁判員の質問に、ハイテンションで早口にまくし立てる。気持ち良さそうに。きっとこうやって布教活動に邁進して、人々を籠絡させていたったんだろうな。
 で、最後に平田被告に言いたいことは? と質問されて、
「必ず生きてね、刑に服すれば、社会に戻れる方。二度とオウムのような事件が起きないよう最大限に尽くしてもらいたい。そこは切に願う」なんて言いながら、泣いてみせる(って、いうか、起こしたのはお前だろう!君も被害者なのか!?)。もう自分に酔っているとしか思えないんだよね。それをまたマスコミが感動秘話のように持ち上げちゃうから。
 井上の証言もどこか裁判のキャスティングボートを握ることに精一杯で、どこか事件と真摯に向き合っているように見えない。むしろ、検察の切り札になって、平田を自分たちの側に必要以上に引きづり込もうとしているようにすら感じてしまう、この違和感。
 死刑囚が法廷に出てくる極めて異例の裁判。それも3人も。そこにある種の未知の期待もあったのだが……死刑囚ってこんなものなのか!?
どうする?平田信 平田信被告

 かつての法廷では、いろんな思惑があったとしても、もっと正面から事件と向き合っていたはずなのに。死刑が決まって、それぞれのパーソナリティーが極端な方向に突出していってしまっている気がする。
 事件が風化するより、死刑囚たちが劣化していく。
 遮蔽板を置いているのも、外からの無用な刺激を避ける為、とされる。刺激を避けて、静かにその時を待つ。だけど、彼らの心は本当に穏やかで静寂なものなのか。前よりもっと酷くなっている気がする。だいたい、仏教を信奉し小乗でも大乗でも悟った人間なら、「麻原」なんて呼び捨てにしないだろうに。死刑宣告を受けると、みんなこうなっちゃうのかな?
 お陰で証言が真っ向から対立する構図に。
 どっちの言葉を信用することができるのか。どっちのストーリーが真実なのか。
 結局、死刑囚出廷という平田公判の最大のヤマ場を過ぎたところで、裁判員の負担だけがずっと大きくなっただけのような……。
 なんなんだ!?この裁判。



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プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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