剽窃者たちの系譜

 本を出版する、ということは、とても嬉しいことだけど、
 同時に、とても嫌な思いをしたこともあるので、
 そのエピソードについて触れてみます。

『帰還せず 残留日本兵六〇年目の証言』という拙著が新潮社より単行本として出版されたのは、2006年のことになります。その後、2009年には同じタイトルで、文庫化もされています。
 これは、ちょうど前の年、2005年に戦後60年の節目を迎えて、戦地の東南アジアからの帰還を望まず、自らの意思で現地に留まった元日本兵の方々を取材したものです。なぜ、あなたたちは日本へ還らなかったのですか。その理由を尋ねることをコンセプトに、同年『文藝春秋』にて掲載されたルポを基調に一冊にまとめました。ですから、本著には初出が(そしてお世話になったのも)『文藝春秋』であることも、きちんと記載があります。
 ところが、この本が出て、直後のことです。
 産経新聞社から『未帰還兵(かえらざるひと) 六二年目の証言』なる本が出版されたのです。
 びっくりしました。取材対象者もいっしょ。いや、それどころか構成もほぼ同じで、しかも、随所に同じ文章が出てくる。藤田松吉さんという、タイの内地に留まっていた方の登場場面なんて、まったくページをなぞったように同じでした。
 ぼくが現地を取材するずっと以前にも、同じ取材対象者を取材して、出版されている著作物もあります。だから、同じ人物を取材するな、とは言いません。だけど、これは酷すぎる。コンセプトからはじまって、まったく同じ本を作ったとしか思えない代物です。ご丁寧に、巻末の参考文献にはぼくの著作名まである。
 当時、ぼくは日本文藝家協会にも相談しました。
 懇意にしていた弁護士さんにも相談しました。
 そこで、あれやこれや議論もあったのですが、結局、小説のタイトルに著作権がないように、著作権法に問うことはできないということでした。微妙に文章を変えていることもありましたし、それでも過去に法廷に持ち込まれた判例をみると、裁判所もあえて騒ぎを避けるように深く追及することをせず、法廷闘争の効果がないことは明らかで、むしろ時間と手間がかかって面倒なだけ。本来なら、そうした面倒を乗り越えてでも著者の権利を守るのが日本文藝家協会のような気もしたのですが、結局、こうした問題は作者の良心に委ねられるものなのだそうです。
 それだけに、かえって、嫌な思いがしました。明らかに剽窃なのに。
 だいたい、タイトルを見比べただけでもその異常さに気付くでしょう。

『帰還せず 残留日本兵六〇年目の証言』
『未帰還兵      六二年目の証言』

 それで取材対象者がまったくいっしょなのですから。
 この産経新聞社の出版物の作者は同じ産経新聞の記者なのですが、実はこの記者、過去に日経新聞の記事を盗用したとして、処分された経歴の持ち主だったのです。
 やはり、盗み癖は治らないのでしょう。
「そういう奴(盗用者)は、必ずまたやる」そう教えてもらったのも同じ新聞のベテラン記者さんだったのですが……。
 中国の商品パクリなんて、もはや糾弾もできないほどに始末が悪い日本の現実です。

 それと、もうひとつ。
 本を出した3年後に『花と兵隊』というドキュメンタリー映画が公開されています。
 これが、まったく同じ取材対象者を取り上げたもの。
 しかも「なぜ、あなたは還らなかったのですか」というコンセプトまで、はっきりと打ち出している。
 取材開始時期は、明らかにこちらの初出のあとです。
 記録映画、映像にしたのだからいいだろう、という次元で許されるものではない。
 いや、それどころか、映像まで盗んでいるのですから、驚きです。
 ぼくの『帰還せず』の表紙は、単行本も文庫本も、タイに暮らしていた中野弥一郎さんに出征当時の額縁写真を掲げてもらっている写真です。取材当時に、ぼくが中野さんに頼んで、ぼくが撮影しました。
 これとまったく同じポジショニングの画像を撮って、この作者は喜んでいるのです。
 明らかにパクリです。剽窃です。
 しかも、ここに登場してくる人たちのなかには、終戦後すぐに帰国して、いまも日本と往来のある人までいて……。まったくコンセプトとずれている人たちまで登場させて「未帰還兵」としているのですから、さらに悪質です。
 それをまた本にしちゃって……それが許されると思っているのだから、どうかしている。

 もう、とても苦労して、せっかくいい仕事をしたと思っても、端からこうして盗まれていったのでは、堪ったものじゃありません。
 ほんとうに嫌な思いはするし、次につなげるモチベーションも急下降する。
「他人に真似のできないものを作ればいいだろう」という人もいますが、
 そんな次元の問題ではない。
 守るべき最低限の不文律や良心を失って、業界全体が腐っていくのだから。

 因みに、剽窃映画を撮って喜んでいるこの映像作家。
 よりにもよって、東日本大震災をテーマとした『311』というドキュメンタリー映画で、なんと、森達也とつるんでいるのですから、もう言葉もありません。
 類は友を呼ぶ、とは言いますが、森達也も平気で人の著作を盗む人。

<ブログ>破廉恥
http://aonumazezehihi.blog.fc2.com/blog-entry-6.html

 やっぱり嘘つきや泥棒は結託するのでしょうか。
 それとも、彼らのいる記録映画やドキュメンタリー映像の世界こそが、虚偽と剽窃の世界なのでしょうかね。

 同じことをやられたら、もう黙ってはいませんが……!



フクシマカタストロフ カバー・帯 http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900148
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プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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