再び!『青ちゃん新報』過去に置いて来たいもの 2014年5月20日

再び!青ちゃん新報2電子版

パソコン遠隔操作事件と菊地直子被告の共通点
 急転直下〝真犯人〟と認めざるを得なくなったパソコン遠隔操作事件の片山祐輔被告。誰だぁ〜!? 奇をてらって、いっしょになって無罪支援の片棒を担ぐような論調を張っていた似非ジャーナリストは……。全国ニュースで「なぜこんなことをしたのか、彼の心理を探っていきたい」「こういうことがないように学習していきたい」なんて、よくぬけぬけといえたものですね。眼識がなかった上に、結果的に犯罪者まで取り逃がそうとしていた所行。恥はかき捨てとは言いますが、本当に〝恥〟というものを知らない。
 それにしても、きっかけは真犯人を偽装したメールを自動送信した携帯電話を荒川河川敷に埋めていた片山被告の行動を捜査員が目撃していたことでしたが、実際には保釈中の彼の動向をずっと尾行していたのでしょう。恐ろしいばかりの監視能力というか、捜査の執念というか……。ひょっとしたら盗聴あたりもやっていたのかな。
 そのいわば〝国家権力〟の監視能力の恐ろしさは、いま東京地方裁判所で審理が続けられている菊地直子被告の公判でも裏付けられています。
 菊地被告が起訴されているのは、いまから19年前に地下鉄サリン事件が発生し、その2日後にオウム真理教教団施設に一斉家宅捜索が入り、そして教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚の逮捕を免れるべく、捜査攪乱を目的として、東京都知事宛に手製の爆弾を仕掛けた郵便小包を送った、その爆薬の原料となる薬品を山梨県上九一色村(当時)の教団施設から東京都八王子市内のアジトに運んだ、というもの。
 このアジトとなったマンションの一室には、井上嘉浩死刑囚や中川智正死刑囚などが潜んでいて、ここで爆薬や爆弾を製造しています。それどころか、未遂に終わったとはいえ、この同時期に新宿駅地下街の公衆トイレに青酸ガス発生装置を仕掛けた事件も、この八王子のアジトを拠点に行われています。
 で、いまの裁判で驚かされるのは、この八王子のアジトに薬品を持って運び込む当時の菊地直子被告の姿や、青酸ガス発生装置を持って新宿に〝出撃〟する中川智正死刑囚をはじめ、マンションに出入りする信者たちの姿を全部写真に撮っていて、それが証拠として取り扱われていること。
 いまの姿からは結びつかない、爽やかな女性らしい服装で薬品を運び込む若かりし日の菊地被告の写真なんて、東京地裁第104号法廷の大型モニターにバッチリ映し出されています。それも1枚どころか、何枚も。
 ここまでわかっていたのなら、都庁爆弾事件で都の職員が片手の指を全部失う大怪我をすることもなかったなんじゃないのかな。事件は未然に防げたのではないのか……なんて思ってしまいます。それくらいしっかりと彼らの動向を監視していたのですから。恐ろしいものです。
 でも、そこからまた菊地直子や高橋克也を取り逃してしまうのだから、これまたなにをしているのかよくわからなくなる。


混沌とする20年前の記憶と
もうひとりの犯罪被害者

 その菊地直子被告のこの日の公判では、クシティガルバ棟で土谷正実死刑囚のもと、いっしょにワークをしていたという元女性信者が証人出廷。彼女はサリンや覚醒剤を生成したとして、懲役3年6月の刑に服し、既に社会復帰しています。
 ですが、この女性。検察官の主尋問にも「うーん……」と唸って言葉を詰まらせ、当時のクシティガルバ棟の実態や、被告人をはじめとする他の信者たちとの関係を「覚えていない」「わからない」と連発。
 教団施設内でサリンを生成した20年前のことを事細かく思い出せ、というのも無理があるのかもしれませんが、それにしても、薄れ行く記憶の勢いというものは凄まじいものがあります。
 当時の菊地直子の姿を映した写真は、昨日のように色鮮やかに残っているというに。
 いや、それでも、淡々としながら、言葉に窮して記憶を呼び起こせないでいる証人の言動は、さすがに意図的に過去を忘却の彼方へ押しやろうとしているようにすら見えます。イヤな思い出をかき消すように。
 淡々としながら、どこか突き放したような口調も気になります。これで証人としての、証拠能力があるのか、心配にすらなってきたとき、検察官が最後に訊ねました。
「あなたは、今回、あまり裁判に関わりたくない、という気持ちがあるのではないですか」
 裁判員の前で証人が答えます。
「それは、いま、あります」
 そして、証人テストもろくにできず、しかも過去の記憶を呼び起こすことのできない理由。
「プライベートが忙しくて、思い出すことができません」
 差し支えなければその事情を教えてください、と検察官が訊ねると、
「…………」
 彼女は再び言葉に詰まって黙ってしまいました。
 だから、検察官が補います。
 身内の方の看病で忙しいのですね。
「……そうです」
 いまも重い病気で……。
「はい」
 証人テストもできない状況ですね。
「はい」
 いまも、イヤだという思いはありますか?
「それは、あります」
 社会復帰後は、家庭も持っているのですね。
「はい」
 その中には、証人の昔のことを知らない人もいる。
「はい」
 被告人を前にして、不利なことを言いたくない、という気持ちもありますか。
「それは、あんまりないかもしれない」
 被告人が逮捕されたと聞いてどう思いましたか?
「…………」
 うまく言葉が出ませんか。
「あまり、言いたくありません!」

 サリンを生成したとして処罰され、社会復帰後は新しい家庭を持った。
 いまは身内の看病に勤しみながら、過去を振り返ることに躊躇する。
 この女性が、教団施設一斉家宅捜索後の騒ぎのなかで、背後から包丁で刺されて死んだ村井秀夫元幹部の妻であったことをどれだけの人が知っていたでしょうか。

 いったい彼女は、みんなに平等な時間の流れのなかで、なにを思い、なにを考え、そして、なにを忘れ、なにを乗り越えてきたのか。
 彼女自身の法廷でも、いっしょに入信出家した、かつての夫の死については、今日と同じようにほとんどなにも語らないままに終わっています。

 オウム真理教の引き起こした事件で亡くなった方のご遺族の姿を思い浮かべてみる。
 そして、20年前の姿からは想像もつかないほどに変容した被告人の姿を眺めてみる。
 やはりぼくにはよくわからない、混沌としたものだけが残る。

 その彼女が、サリン生成に携わるきっかけとなったクシティガルバ棟への異動の経緯について訊ねられたとき、
「村井秀夫に、それまでいた部署からすぐに異動するように言われて……」
 そう呼び捨てにしていました。
 彼女にしてみたら、かつての夫の死すら、過去に置いて来たいものだったのかも知れません。



オウム裁判傍笑記 www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784094026979
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プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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