ヨウ素安定剤事前配布の摩訶不思議

原発大国フランスと日本の違い
 福島県の小児甲状腺癌の多発について、この現実をどう受け止めたらいいのか、これは原発事故由来によるものではないのか、取材の蓄積や専門家の見解から、具体的に『週刊現代』(6/21号)に書いたことですが、それに関連するお話です。

 チェルノブイリ原発事故後、汚染地域で子どもたちの甲状腺癌の多発が顕著化したことは周知の事実です。放射性ヨウ素によるものです。
 その一方で、ポーランドではその傾向が見られなかったことも、世界的に知られています。これは事故直後の素早いヨウ素安定剤の服用の措置が功を奏した結果とされています。

 北海道電力泊原子力発電所から半径5キロ圏内に位置する北海道共和町では、原発事故の際に甲状腺被曝を防ぐヨウ素剤を事前に配布しないことを決めたそうです。先週のことです。
 理由は、住民に事前配布すると、誤飲の恐れがあるから、紛失の恐れ、保管場所の失念の恐れがあるから、それに3年の使用期限ごとに再配布することが困難だから。
 あらかじめ、町内の診療所に保管しておいて、事故が起きたときに一斉に配るのだそうです。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140619/k10015331841000.html
http://www.yomiuri.co.jp/hokkaido/news/20140619-OYTNT50615.html
http://jp.reuters.com/article/jp_energy/idJP2014061801001937

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 去年、改正された国の原子力災害対策の指針には、原発から5キロ圏内を目安に住民にヨウ素剤を事前に配布することが盛り込まれていますが、原子力規制庁は、あくまでも指針で、緊急時に速やかに配布することができる地域は必ずしも事前配布にこだわる必要はないとしています。[NHKニュースより]
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 やれやれ、これでは福島第一原発事故以前となにも変わっていませんね。
 事故前は、事前配布しようにも「薬事法違反になる!」という理由で各家庭への配布ができませんでした。
 しかも、ヨウ素剤の保管は県の管轄。だから、大飯原発のある福井県おおい町では、事故が起きたあとに隣の小浜市まで取りにいかなければなりませんでした。
 それで、薬が役に立つのか、とても疑問でした。

 その他の地域でも、消防署や小学校がまとめて保管していて、分配方法も統一されていなかったのが実情でした。

 チェルノブイリ原子力発電所に隣接していたプリピャチ市の学校でヨウ素剤が配られたのは、爆発事故から12時間以上が経ってからのことです。

 さて、そこで原子炉保有数、発電出力が共に世界第2位の原発大国フランスの場合。
 原発のある街のカフェでは大量のヨウ素剤が事前配布されて保管されています。
 事故が起きたときに、そこにいる客たちにも飲ませるため。

[フランス北部グラヴリーヌにて]
〜原子炉6つをかかえる原子力発電所がある町
カフェ主人①
 カフェの店主が持ち出してみせてくれたものはヨウ素安定剤の束

ヨウ素剤と説明書
 店に常備されているヨウ素安定剤の束とその説明書

説明書・裏
 説明書の裏には具体的な服用方法が書いてあります

 フランスのグラヴリーヌ原子力発電所の現地を訪れたのは、2011年5月。フクシマの事故から2ヵ月後のこと。チェルノブイリ原発事故現場の取材から帰国途中のことになります。
 その当時のルポも含めて『フクシマ カタストロフ 原発汚染と除染の真実』に詳しいです(読んでみてください!)

グラヴリーヌ原子力発電所
 海岸沿いに建つグラヴリーヌ原子力発電所 6つ並ぶ円筒系のものが原子炉


 もちろん、住民の各家庭にも事前配布されていて、ラジオ放送の指示によって、適量を服用します。

 外に出るより、屋内に待機していたほうがよっぽど安全だからです。

グラヴリーヌ/カフェ・外観
 フランス・グラヴリーヌの街中のカフェ 中央の広場では毎週マーケットが開かれる

 では、このヨウ素剤はいつ配られるのか?
 それは街を挙げての訓練の時。
 必ずしも住民は積極的に参加しなくても、自治体が必要な措置がとれるか、確認するだけでもとても重要なことなのです。
 その時に、使用期限の切れたものとヨウ素剤を交換する。街のカフェにも補充する。
 原発のある国に、街に暮らすということは、そういうことなのです。少なくとも、「事故は起きる可能性がある」「リスクはゼロではない」という前提で対処を講じているフランスでは。
 そこには自己責任も伴う、事故に備えて家庭ぐるみ、町ぐるみの防衛策も必要である、そういう考え方が浸透して、それが当たり前のことになっています。
 それが、相変わらずというべきか、国民性の違いがそのまま表出しているのか、事故を体験したあともなにも進捗していないような気がしています。同じ原子力を扱っているはずなのに。



フクシマカタストロフ カバー・帯 http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900148
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プロフィール

あおぬまよういちろう

Author:あおぬまよういちろう
【青沼陽一郎】
「ジャーナリスト」(週刊文春・週刊新潮)と呼ばれたり、
「ノンフィクション作家」(週刊現代)と呼ばれたり。
 日本文藝家協会・会員名簿には「作家・ジャーナリスト」とある。
 著書に『池袋通り魔との往復書簡』『オウム裁判傍笑記』(小学館文庫)『食料植民地ニッポン』(小学館)『裁判員Xの悲劇』(講談社)『私が見た21の死刑判決』(文春新書)『帰還せず-残留日本兵六〇年目の証言-』(新潮文庫)など。
 映像ドキュメンタリーに『虚像の神様〜麻原法廷漫画〜』シリーズ。

ぜぜ−ひひ【是々非々】
 よいことはよい、悪いことは悪いと公平な立場で判断すること。
「 是を是とし非を非とす る、之を知と謂い、是を非とし非を是とする、之を愚と謂う」『荀子』修身より

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